開催報告 「認知症のある人にやさしいミュージアム体験を考える」

開催報告 「認知症のある人にやさしいミュージアム体験を考える」

115日、「ミュージアム処方」で連携している美術館·博物館・動物園の職員の方を対象とした、認知症の理解を深めるための研修「認知症のある人にやさしいミュージアム体験を考える」が開催されました。
本研修は、認知症のある人でもミュージアムで安心して過ごすことができるための環境づくりを、当事者目線で考えられるグループワークを用いながら意見交換し深く考えることを目的としています。

認知症について

2026年に突入した日本の現状としては、認知症またはその予備軍の方が、高齢者の約4人に1人になるという状況にあります。
ご本人・ご家族・お知り合いなど、誰もが直面する可能性がある重要な課題であるのは日本だけでなく、世界規模の課題として取り上げられています。

※認知症についてよくわかる記事はこちら
令和7年7月8日(火)オレンジカフェ「認知症についてよくわかるcafé」の詳細はこちら

新しい取り組み「ミュージアム処方」とは

「ミュージアム処方」とは、美術館や博物館、動物園と医療機関が連携し、認知症や軽度認知障害のある方やそのご家族、地域の方を対象に、ミュージアムでの鑑賞や動物園での観察、ワークショップへの参加などの「社会参加の機会」を提供することです。
昨年の大阪万博でも「文化的処方」に関する展示が開催され話題となりました。薬で人を健康にするのではなく、アートや文化の力で人と人の「つながり」を増やし、人を元気にする活動やその仕組みを指します。アート鑑賞や文化活動を通じて、脳の活性化、認知症の進行予防、社会的孤立の解消、コミュニケーションスキルの向上など、様々な効果が期待されています。

効果について知る

過去開催の内容を振り返りながら、そこでの工夫や「ミュージアム処方」のプログラムがもたらす効果について見ていきましょう。

▶︎東京国立博物館ワークショップ「伝統もようのお皿作り」

東京国立博物館ワークショップ「伝統もようのお皿作り」

※開催記事はこちら
令和7年10月24日(月)ミュージアム処方の詳細はこちら

▶︎上野動物園ワークショップ「キリンってすごい!を体験」

上野動物園ワークショップ「キリンってすごい!を体験」

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令和7年12月19日(月)ミュージアム処方の詳細はこちら

グループワーク

「ミュージアム処方」の過去例から様々な現場の分析ができた上で、今度は実際に認知症がある方がミュージアムを訪れた際に陥る可能性がある状況をもとにして考えるグループワークが行われました。参加者のみなさんの意見が飛び交う、とても賑やかな時間でした。話し合いの後、それぞれのシチュエーションについての解説を聞きながら、対応の仕方を学ぶことができました。

実行機能について

(段取りして実行する力が落ちている場合) ・映像展示や触れる展示で「次へ進む」という判断ができず、何度も同じ操作を続けたり、他の来館者が待っていても気づかない ・ワークが理解できずトンチンカンな取り組みをしている  サポートのポイント ・抽象的な指示(「そろそろ」「次に行きましょう」など)は避ける ・行動を止めず「次」を具体的に提示する→「この展示はここまでです。次はあちらに、別の体験がありますよ、一緒に行ってみましょうか」など ・説明より一緒にやる姿勢を見せる「面白い取り組み方ですね。よかったら、こちらも一緒にやってみませんか」など

失見当識(見当識障害)

(「今」に見当をつける力が落ちている場合) ・順路の途中で「ここはどこ?」となっている ・レクリエーションの途中に「このひと誰?」となっている ・季節の課題にズレた取り組みをしている  サポートのポイント ・地図にわかりやすい工夫をする(しるしを付ける、補足の説明を書くなど) ・表情をよく観察して自然にリアリティオリエンテーションを行う (リアリティオリエンテーションとは:時間・場所・人物などの現実情報を繰り返し伝え、混乱や不安を和らげる非薬物療法) ・課題の正解にとらわれず、自由な取り組みをさせる ・例を提示して取り組みのヒントを与える

理解・判断力について

(適切に理解して判断する力が落ちている場合) ・入場券を買えずに手間取っている ・ワークに手がつけられずにいる ・入場料はいらないと思い込んでいる  サポートのポイント ・何事も本人のペースで物事を進める→可能な範囲で個別の対応をする ・慌てたり、焦ったりするとできることもうまくいかなくなるので、落ち着かせる配慮をする(「ゆっくりで大丈夫ですよ。今日は天気が良くてよかったですね」などの声かけ ・わかりやすい掲示などで普通にできることもある ・感情的にならぬよう、正論は控える。対応する人を変えるなど

参加者の声

  • 美術館が成しえる役割と意義をあらためて知ることができた事、認知症の方に対しての声のかけかたなど、自分でもできる事を教えていただきとてもありがたく有意義な研修でした。
  • ミュージアムでの体験がMCI段階での回復にどういう意味で役に立つのかを具体的に解説いただき、断片的にしか知らなかった事がつながったり、思い込みを修正することができました。
  • 認知症について初めて知る事ばかりで大変勉強になりました。プログラムについて具体的に考えられる効果を医療関係者側の視点で分析していただくことで、自分たちのプログラムを新たな角度から見ることができたことも有益でした。
  • 医療と芸術文化それぞれの持つ力が、もっと相乗効果をもたらす社会になればよいと思いました。

まとめ

2時間に渡るとても内容の濃い研修でしたが、改めて私たち医療者とミュージアム関係者が連携してできること、やるべきことに気付かされる貴重な経験ができたと感じました。
実際に認知症のある方を迎える側の美術館·博物館関、動物園の方のために開催された今回の講座、早速明日から活かしていただけるような学びを持ち帰っていただけていたらとても嬉しく思います。
「ミュージアム処方」は、認知症の進行予防や共生社会の実現に先駆けた取り組みであり、大きな効果を発揮し始めています。
認知症による孤独や苦しみを抱える方々に「今日は素晴らしい一日だった」と思っていただけるような社会の実現を目指して取り組んでまいります。

ミュージアム処方箋東京モデルの開発の取り組み

永寿総合病院 認知症疾患医療センターでは、東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団と共催し、クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー 
パートナープログラム「ミュージアム処方箋東京モデルの開発―認知症フレンドリーな社会づくりのための連携事業」に取り組んでいます。
開催されたミュージアム処方ワークショップも上記プロジェクトの一環として実施されました。

今後も、認知症の方の社会参加や生きがいづくりをサポートするため、このような文化施設と連携した活動を継続してまいります。