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永寿総合病院の総合診療内科で、日々患者さんと向き合っている私ですが、医師を志した原点は高校時代に図書館で出会った一冊の本でした。「人を助けるお仕事って素敵だな」と感動し、医師を目指すという強い想いが湧き上がったんです。家族に医師はいませんでしたが、両親は「いいんじゃない、やってみれば」と温かく応援してくれました。
家庭の経済的な事情もあって、できるだけ学費を抑えたいと思い、自治医科大学医学部へ進学しました。ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、自治医科大学は全国47都道府県から各2名ずつ医学生が選抜される仕組みになっていて、卒業すると出身都道府県に戻って僻地医療に従事するんです。私はこの制度を利用して、修学資金の全額貸与を受けながら医師への道を歩み始めました。
かつて体が弱く、自分自身も病院で内科のお医者さんにも助けてもらった経験が大きかったこともあり、どこで働くことになっても患者さんにしっかり向き合えるよう、内科医として研鑽を積みたいと考えていました。卒業後は、北海道に戻り、研修医として地域医療の現場でスタートを切りました。
研修医の時にお世話になった旭川医科大学の医局は、循環器内科の教授を中心とした内科学講座でした。呼吸器内科、脳神経内科、腎臓内科チームも含まれる大講座で、先輩たちは自分たちのことを「何でも内科」と呼ぶほど、その言葉通り、様々な病態の患者さんを受け持ち、診療していました。重篤な患者さんが次々に入院するなかで、検査と診断を進めていくと、循環器疾患だけでなく、呼吸器疾患や神経疾患、感染症、膠原病、血液疾患など、隠れていた病気が明らかになることは少なくありませんでした。
多くの専門医や医療スタッフが連携しながら治療を進めていくなかで、「多様な個性の職種や専門科が連携して総合力を発揮する」 ことの重要性を学び、その一因子として働ける「総合診療内科」という仕事に、やりがいを感じるようになっていきました。
発熱、貧血、食欲不振、体重減少、疲労感など、「何科を受診すればよいか分からない」症状は少なくありません。これらの症状には、さまざまな病気が潜んでいる可能性があります。最も多いのは感染症で、インフルエンザやコロナ、溶連菌、マイコプラズマ、百日咳などの関与や、体内の真菌感染や結核なども考えられます。また貧血や体重減少がある場合は、がん、ホルモン異常、バセドウ病、糖尿病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など、多くの病気が視野に入ります。
当院の強みのひとつは、充実した検査環境です。まずは総合診療内科でしっかりと検査を行い、病気の可能性を詳しく絞り込み、必要に応じて専門医へつなぐことが大切な役割のひとつです。
健康診断や人間ドックで「要再検査」となった方にも、総合診療内科の受診をおすすめしています。例えば、健診で「コレステロール値が高い」と診断されても、その原因は人それぞれ異なります。初診の際に詳しく生活習慣を伺うことで、夕食の時間が遅い、食事の量が多いなど、コレステロール値が高くなった背景が見えてきます。 電子カルテを活用して数年分の変化を確認し、「数値が良かったときは何をしていたのか」「悪化した今はどうなのか」をご自身の健康の歴史を辿りながら振り返ることもあります。
健診結果との因果関係を理解することで、患者さんが治療に前向きになってくださると感じています。
また、複数の病気を抱えている患者さんが一度に複数の診療科を受診できない場合や、どの病気が悪化しているのか判断が難しいときも、総合診療内科がお役に立てると考えています。高齢化が進むにつれ、複数の病気を抱える患者さんが増えています。そのような患者さんの身体の不調の中から治療が必要な病気を見極め、適切な治療につなぎます。
専門的な治療を終えた安定期の患者さんの治療継続や、介護施設や在宅医療への移行支援など、治療後の橋渡し役も担っています。
永寿総合病院では、消化器内科・循環器内科・呼吸器内科などの各専門内科の医師が一堂に会し、カンファレンスを通じて診療情報を共有し、治療方針を検討しています。他科との密な協力体制が整っているからこそ、複数の病気を抱える患者さんにも幅広い診療が可能です。気になる症状がある場合は、永寿総合病院の「何でも内科」にご相談ください。
総合診療内科医として勤務する中で、多くの女性患者さんの悩みに接する機会が増え、とくに働き盛りの女性にのしかかる更年期障害の問題を強く意識するようになりました。更年期に差し掛かる年齢は、仕事で責任ある立場を任され、親の介護を担い、お子さんの受験期を迎えるなど、仕事と家庭の両方で多くの負担を一身に背負っている時期にあたります。しかし、全ての婦人科で更年期治療を専門的に扱っているわけではなく、受診先が限られているのが現状です。さらに、メンタルクリニックを勧められ、本来必要のない安定剤を服用してしまうケースも見受けられます。
そこで、内科医の視点から女性医療についてより深く学びたいと考え、女性ヘルスケア専門医取得を目指し、女性ヘルスケア研修などの専門医プログラムを履修しています。内科医が女性ヘルスケア専門医を取得することは珍しいケースですが、当院の婦人科の先生方と連携し、適切な治療につなげられるよう努めています。
婦人科の病気かどうかご自身で判断がつかない方や、最初から婦人科を受診することに抵抗を感じる方は、ぜひ一度、総合診療内科にご相談ください。
一般的に、女性は男性に比べて平均寿命は長いものの、健康上の理由で生活に制限がある期間が比較的長い傾向にあります。つまり、健康寿命が十分とはいえません。その背景には、閉経後に“エストロゲン”と呼ばれる女性ホルモンの分泌が減少することで、血管が硬化しやすくなり、動脈硬化や高血圧、心筋梗塞などのリスクが高まります。また、骨の新陳代謝が乱れるため、骨密度が低下します。更年期の女性に骨粗しょう症が多いのはそのためです。転倒による骨折がきっかけで寝たきりになってしまうケースも少なくありません。
健康寿命を延ばすには、血管、骨、そして筋肉を丈夫に維持し続けることが重要です。そのために日々の食生活において、たんぱく質を積極的に摂取することをおすすめしています。
肉や魚、卵や乳製品はもちろん、豆乳や大豆製品にも豊富なたんぱく質が含まれていますが、中でも私が注目しているのは海苔です。海苔には、たんぱく質に加え、葉酸をはじめとする女性に必要な栄養素が豊富に含まれています。浅草や東京湾には美味しい海苔がたくさんありますので、ぜひ普段の食事に取り入れてみてください。
また、たんぱく質を摂取することで、内臓の修復を促進する効果も期待できます。永寿総合病院の栄養科では、高齢の方でも摂取しやすいたんぱく質ゼリーなどの補助食品を導入し、栄養補給をサポートしています。
総合診療内科では、保険診療の範囲内で、患者さんの栄養状態を把握するための検査を実施しています。具体的には、鉄、亜鉛といったミネラルや、日本人に不足しがちなビタミンDの血中濃度などを測定しています。あまり知られていませんが、ビタミンDは骨や皮膚を健康に保つ以外にも、アレルギー疾患、がん、感染症などのリスクを下げるとされる非常に重要な栄養素です。
以前勤務していた病院でのエピソードですが、普段はとても元気な20代の男性職員が風邪をこじらせ、念のため体内のビタミンD量を測定したところ、25-ヒドロキシビタミンD※の血中濃度がわずか9ng/mLしかなかったという事例がありました。25-ヒドロキシビタミンDの血中濃度が20ng/mL未満だと、ビタミンD欠乏です。2023年に東京慈恵会医科大学が発表した研究では、98%の日本人がビタミンD不足に該当するというデータが公表されました。健康維持のためには、25-ヒドロキシビタミンDの血中濃度は30~50ng/mL程度が望ましいと言われています。
栄養状態は、日々の体調や健康維持に大きく影響します。総合診療内科では、栄養状態の検査を通じて健康管理のサポートも行っています。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
※25-ヒドロキシビタミンD…ビタミンDの主要な貯蔵形態で、体内のビタミンD量の指標。
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